
【アート×企業】インタビューシリーズ vol.5 ザ・ルイガンズ. スパリゾート
マッチング
Artist Cafe Fukuoka がさまざまな地場企業と取り組んだ、アーティストとのマッチングサポート事例を紹介していく本連載。第五弾は、ザ・ルイガンズ. スパ&リゾートによる「ART RELAY PROJECT(アートリレープロジェクト)」での事例をご紹介します。
ザ・ルイガンズ. スパ&リゾートは、国営公園「海の中道」の中に位置するリゾートホテル。全国各地で婚礼プロデュースやホテル、レストラン事業を運営する「(株)プラン・ドゥ・シー」が、前身の「海の中道ホテル」を2007年に引き継ぎ営業を開始、以来ホテルの集客数は年々増加。どの部屋からも博多湾を一望できる贅沢なオーシャンビューとラグジュアリーな非日常空間で、今では近県はもちろん海外からの宿泊客も絶えない人気ホテルです。


ザ・ルイガンズ. スパ&リゾート(ホームページより)
そんなザ・ルイガンズが2021年から展開しているのが「アートリレープロジェクト」。総支配人を務める大里晃紀さんのある想いから始まったこのアートプロジェクトが、徐々に社員たちに色んなことを“自分ゴト化”させる前向きなムードを育んでいます。
今回は、ザ・ルイガンズで広報を務める堤咲綾さんに加え、総支配人の大里晃紀さんにもお話を伺いました。インタビュアーはArtist Cafe Fukuoka(以下ACF)アドバイザーも務める株式会社三声舎の三好剛平さんです。
プロジェクトのはじまりと、ACFの関わり

ザ・ルイガンズ広報 堤咲綾さん
三好:まずは「アートリレープロジェクト」とは何なのか、始められたきっかけも合わせて教えてください。
堤:「アートリレープロジェクト」は、ルイガンズがセレクトするアーティストと協働して、館内での作品展示・販売をはじめ、様々なコラボレーションを展開するシリーズ企画です。2021年にスタートしてから、2024年10月までに9回実施してきました。
きっかけは、ルイガンズ総支配人である大里がニューヨークのSOHOを訪れた際に体験した、ひとつの風景でした。現地ではあちこちのストリートにアーティストの作品が飾ってあり、そのなかには著名なアーティストの作品もあれば、全く知られていない作家のものも並んでいる。その中から、街ゆく人々は作家の有名無名を問わず「自分の気に入った作品」を買っていく。
大里は日本におけるアートとの距離感や、右にならえの価値観にずっと違和感を抱いていたこともあり、自分の審美眼に自信を持ってアートを日常的に楽しむ現地のような風景を、自分たちの街でもつくりたいと考えました。自分の好きなものについて、誰もが自由に語り合えるような場をつくる。そこを目指して、このプロジェクトは始まりました。
三好:プロジェクトでは、これまでどのような活動を行なってきましたか?
堤:2021年に行なったvol.01では、一般社団法人障がい者アート協会さまとの連携で、複数の作家さんたちが描いて下さった絵の展示のほか、ポストカードとして販売する展開も行いました。

vol.01のようす(ホームページより)
続くvol.02では、福岡を拠点に活動するグラフィックアーティストでペインターのWOK22さんとのコラボレーション。1階アートギャラリーでの展示・販売をはじめ、ビジュアルアーティストDENPAさんによる展示との同時展開、そして3階の宿泊室に絵を描いていただき、実際に“泊まれる作品”にする「アーティストルーム」の取り組みも実施しました。
三好:近年この「アーティストルーム」のように、アーティストが作品化したお部屋を宿泊室として貸し出す取り組みは県外の様々なホテルでも見られます。ルイガンズでは、お客様からの反応はいかがですか?
堤:店頭でのご反応はもちろん、SNSでもアート作品のなかに泊まれるこの部屋の体験を喜んで下さっている投稿が見られるなど、好感触です。私たちスタッフもこのアーティストルームについては、お客様のフロントチェックイン時にアップグレードのご提案として推している自慢のお部屋でもあるので、そうやってお客様の滞在にアート体験まで組み込んで、楽しんでいただけたのがわかると、嬉しいですね。

vol.02でアーティストルームを手がけるWOK22(ホームページより)
三好:ACFとの協業についてもお聞かせください。
堤:このプロジェクトではもともと、自分たちのホテルという場をアーティスト支援に活用したいという想いもありましたので、参加してもらうアーティストを繋がりのある作家だけに留めず、もっと外へ広げていくにはどうすれば良いかと考えるなかで、ご縁をいただいたのがACFさんでした。
こちらからのお悩みをご相談させてもらったところ、この「アートリレープロジェクト」への参加アーティストをACFで公募してみることをご提案いただきました。実施してみたところ、たくさんの作家がエントリー下さり、そこからvol.03としてグラフィティアーティストのnykeさん、そしてvol.04では銀ソーダさんにご参加いただきました。銀ソーダさんには作品展示だけでなく、「アーティストルーム」制作まで行っていただく充実の取り組みになりました。
やっぱり、アーティストさんとのネットワークや作家の選定ということになると、普段アートのことをやっているわけではない私たちにとっては、「そもそもアーティストさんって普段どういうところで活動していらっしゃるんだろう?」とか「どんなふうに繋がれば良いんだろう?」といった難しさが出てきます。ですがACFが窓口となってくださったおかげで、アーティストさん側も安心してこのプロジェクトに参加いただけただろうし、私たちも自力では出会えなかった作家の方々と協働する機会となり、本当に有り難いサポートでした。

vol.04でアーティスト・銀ソーダによって生み出されたアーティストルーム
現場で生まれ始めている変化
三好:そこで勢いをつかまれたこのプロジェクトは、以降また大里支配人がアーティストをセレクトされるスタイルに戻り、現在vol.09まで続いておられます。この取り組みを通じて、ホテルの現場ではどのような変化が生まれていますか?
堤:まず作品の販売でいえば、ギャラリーで作品をご覧になって「あれって買えるんですか?」というお客様からのお問い合わせがありますね。お求めになるのは国内のお客様が中心ですが、なかには海外の方が購入されていくこともあります。ある展示では、2ヶ月強の展示期間のあいだに合計20点くらいの作品が売れたこともあり、驚きました。
三好:専属の販売員すらいないのに20点も売れたとは、すごいですね。

堤:あと、スタッフ同士のなかでも、展示やアーティストルームへのご案内などをきっかけに「この作品良いね」とか「実は私もこういうアーティストさんを推していて…」という具合で、アートにまつわる会話が増えてきたなと感じています。
やっぱりスタッフもみんなここ(=ルイガンズ)が好きだから、常日頃からどういうものがここに合うかということを考えているんですよね。その“答え”のひとつとして、自分たちが好きなアーティストも有り得るのなら、それは推してもみたくなるよな…と思って、皆のそのようすを嬉しくなりながら眺めています。
私自身も、普段は自分の好きなものや感じている気持ちを表現するのは苦手で、つい内に秘めてしまいがちなのですが、このプロジェクトではむしろそういうことをスタッフやお客様へ伝えていくことが歓迎されるので、じゃあ今度はそれをどんなふうに伝えたら良いだろう?みたいなことを考えるきっかけにもなっていますね。
三好:このプロジェクトが、スタッフ一人ひとりのアートを身近に感じるきっかけになっていたり、アートを通じてルイガンズそのものや自身のお仕事を見直す場面が生まれていたりするというのは、素晴らしいですね。
堤:また、このプロジェクトの一環で、2人のアーティストさんに参加してもらい、シルクスクリーンでTシャツをプリントするイベントをやってみたときには、アーティスト同士初めてご一緒されたようなのですが、すぐに意気投合して、互いに繋がるきっかけになっていたことも印象に残っています。
今後も、このプロジェクトがそんなふうにアーティストさん同士の繋がりもサポートできる場になるならそれも嬉しいことですし、大里は最終的にルイガンズ3階のお部屋全部をアーティストルームにしたい、とも言っていました。

このプロジェクトを続ける理由
さて本記事では、そんなプロジェクトの企画者である大里晃紀支配人にも後日追加でオンラインインタビューを敢行。このアートプロジェクトを通じてどのようなビジョンを実現されたいと思っているのか、伺ってみました。
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三好:まずは作家選定について。大里さんはどのような基準で作家を選んでいるのでしょうか?
大里:自分がもともとグラフィティやスケボー、ヒップホップなどのストリートカルチャーに影響を受けてきたという個人的な嗜好や、展示される作家や作品がルイガンズという特殊な環境のなかでも調和するかどうかといったことは、まず選定に関わっているものではあると思います。
だけど、基本的には作品や表現がどうかということより、まずその作品を生み出している作家さんはどんなことを考えている人なんだろう?ということが先というか。自分がまず人としてお会いしてみたいと思った作家さんに、お声掛けさせてもらっているのかなと思います。
また、こうやってプロジェクトを続けていると、アーティスト以外にも色んな人とお会いすることになります。先日も、海に浮かんでいるような廃プラスチックから、インテリアなどに使える鮮やかなカラー資材をつくっている方とお知り合いになりました。するとすぐに「この資材とあのアーティストを組み合わせたら、ホテルに設置するここだけのリクライニングシートが作れるかも?」と思いついたり、その取り組み自体が海に面した僕らのホテルでのSDGsのメッセージにもなるかも?といったアイデアも浮かんだりする。もしかしたら、販売につながる新しい事業の種にだってなるかもしれない。
そうやって、毎回自分が「好き」だと感じる人とご一緒させてもらうことを続けていると、次は新たに「この人とこの人が一緒にやったら面白くなりそうだな」みたいなことが生まれ始めてきている感じです。

三好:まさしくそのように、この「アートリレープロジェクト」は支配人である大里さんの「好き」や「想い」に始まっていることがポイントではないかと思いました。一人の「好き」が、やがてアーティストやスタッフも巻き込むプロジェクトとして広がっていく。
そして、もし大里さんがいちホテルの支配人として、短期的な採算や効果だけを重視していたなら、このプロジェクトはここまで続くものになっていなかったのではないかという点も重要です。大里さんはこのアートの取り組みを続けていくことに、どのようなビジョンをお持ちでしょうか?
大里:まず、ルイガンズって色んなことに挑戦しやすい環境だと思うんです。だから僕はそんなルイガンズを、誰もが主体的に物事に取り組めて、ひとつのことを成し遂げていける場所にしておきたいという想いがあります。
我々の会社であるプラン・ドゥ・シーには「主体的に物事を考えてプロジェクトを動かす」ことが社風としてあります。まだ存在していないものや、やったことが無いものがあるなら、自分でつくってみたら良いじゃんという姿勢。だけどそうした主体性も、きっと「好き」じゃない物事ではやり通せないだろうとも思う。だからこそ、正解が一つに固まっておらず、一人ひとりの「好き」も正解にできてしまうかもしれないアートの分野は、相性が良いんじゃないかなと思っています。
また、僕自身は「好きこそものの上手なれ」精神で、ホテルが好きだからホテリエをやっているし、アートが好きだからこのアートプロジェクトをやっている訳ですが、それは同時に「好きなことであれば没入できるはず」ということを僕から社員に向けて、プロジェクト越しに見せている側面も確かにあるのかもしれません。

大里:僕は責任者として「直感的」と言われることがあります。「直感」はその瞬間ごとに下す判断のことを指すのかもしれませんが、僕はそれをただその場でくだす当てずっぽうな判断ではなく、それまでその人が自分なりに一生懸命考えたり悩んだりして得た経験則の集積(=「直観」)だと考えます。
アートで言えば、僕ら日本人は作品をじっくり見て判断するよりも先に、キャプションやプライスを確認して、その価値付けに従うだけになりがちです。だけど僕は「1,000万円の価値があるからすごい」じゃなくて、「あなたにとってこの一枚が与えてくれる豊かさって何なのか」ということを問いたい。合っているか/間違っているかではなくて、あなたが自分なりに決めて選んだものを、自分にとってはこうなんだと伝え、それに共感してくれる誰かを見つけていく面白さ。そういうことで全然良いんじゃないかと思う。ひいてはそうやって自分が選んだことを一生懸命伝えてみる経験が、スタッフの「直観」の訓練にもなるかもしれません。
例えばレンタルショップの店頭にある手書きポップも、同じ映画について数名がコメントを書けば、それぞれ全員が違うことを書くじゃないですか。それで、誰かのコメントには共感できないけど、別の誰かのコメントはすごく刺さったり、「この人はそういう切り口で物事を見ていたんだ」と気付かされたりする。そういうことが、このプロジェクトで生まれたアートの魅力を、スタッフ一人ひとりがお客様へお伝えする時にも起きるかもしれないと思うんです。
このホテルでは、一人ひとり異なる「好き」や「夢」を持った人たちがたくさん働いてくれています。そんな多様な彼らがそれぞれに自分で自分の「好き」を伝えたり、かたちに出来たりするようになったら、ホテルにもっと活気や色気が出て、来てくださるお客様にも喜んでもらえるようになるんじゃないかと思います。そして、引いてはそれがスタッフたちの自己実現や成長にまで少しでも良い作用を与えてくれるなら、このプロジェクトを続けていく甲斐がありますよね。
