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【アート×企業】インタビューシリーズ vol.3 株式会社アトル

マッチング

Artist Cafe Fukuoka(以下:ACF)では、福岡にゆかりのあるアーティストと企業のマッチングを促進し、新たな出会いと販路拡張につなげるためのサポート事業を行っています。本連載ではその実装事例をピックアップしてご紹介します。
第三弾は、株式会社アトル本社の社員食堂におけるウォールアート制作の取り組みです。

株式会社アトルとの事例

福岡市東区に本社を置く、医療用医薬品の卸売販売を行っている株式会社アトルの課題は、新型コロナウイルスの影響によるコミュニケーション量の低下や昔ながらの考え方からの脱却でした。こういった課題の解決策として、アートを活用した職場環境の活性化に踏み切りました。ACFは福岡にゆかりのあるアーティストを紹介し、ウォールアートの制作や社員の方との交流の機会の企画をサポートしました。
同社とACFとの取り組みについて、株式会社アトルのイノベーション推進室長の小南章子さん(以下:小南)、経営管理部副部長の山田仁美さん(以下:山田)にお話を伺いました。インタビューは、ACFアドバイザーで株式会社ダイスプロジェクトの岸本拓郎(以下:岸本)さんです。

社内活性化のために

岸本:なぜアーティストとのコラボレーションに興味を持たれたのですか?

小南:新型コロナウイルスが流行っている最中、配送における交通事故が増加していたり、食堂で会話もせずに黙々と食事をしなければならない状況でした。医薬品業界では、環境が激変していく中、社長からも「このままではいけない」という危機感が語られ、変化への対応の必要性を強く感じていました。
こうした背景から、イノベーション推進室が設立され、社内で新たな挑戦への取り組みが始まりました。ちょうど同時期に、福岡市の方よりFukuoka Art Next(FaN)事業の紹介がありました。

岸本:そのお話を聞いて、アーティストとコラボしようと決めたのですか?

小南:はい。福岡市がアートへの取り組みをはじめ、ACFでは企業とアートの導入をサポートする事業があるということを知り、具体的に社内でどのようなことが実施できるか検討することになりました。

岸本:過去にもアートを取り入れる案はありましたか?

小南:まったくないですね。これまでアートを取り入れるという発想自体がまったくありませんでした。仮に以前そのような案が浮上したとしても、当社にはアーティストとの繋がりがなく、実現は難しかったと思います。今回アーティストの方にウォールアートを制作していただくことを通じて、私たちの考え方は根本から変わりました。

社員食堂の壁をアート作品に

岸本:ACFとの取り組みはどのように始まったのですか?

小南:まず私たちがACFを訪問し、課題などをお伝えした後でACFの方に実際に社内を見学していただきました。最初私たちが考えていた案は、オフィスの階段にアートを取り入れ、帰社時に安らぎを感じられる空間を作ることでした。しかし、実際に現場を確認された際、階段の傾斜が急であり、制作スペースも狭いとご意見をいただきました。そのため、作品制作時の安全性などを考慮し、別の場所での展開を検討することになりました。
次にまったくアートの導入を想定していなかった社員食堂を案内したところ、ACFの方からこんなに広い白壁があるのだから、社員食堂にウォールアートを展開してみるのはどうだろう?という提案がありました。当時は新型コロナウイルスの影響で、社員が一人きりで寂しく食事をする状況が続いていました。ACFからの提案を受けて、私たちもウォールアートを通じて社員の気分を少しでも明るくできればと考えるようになりました。そこで紹介していただいたのが、イラストレーターのイフクカズヒコさんです。

岸本:イフクさんを紹介された際は、どのように感じましたか?

小南:紹介を受けた際は、イフクさんの作品の雰囲気がアトルに合うのか、正直わからない部分もありました。しかし、アーティスト支援と社内活性化という二つの目的を同時に達成できる企画だと感じ、実施を決めました。

岸本:ウォールアートの制作はどのように行われたのでしょうか?

山田:イフクさんのウォールアートの制作は、社員が食堂を利用している最中に進められていました。制作をしているイフクさんに、社員たちが気軽に話しかける様子が日々見受けられ、皆が、「これはどうなるんですか」と、親しみを込めて質問していました。本社に約600人の社員がいますが、ほとんど全員がこの制作の様子を目にしていると思います。
制作の過程で、イフクさんはまるでアトルの一員であるかのような雰囲気で作業を行っていて、社員たちへも作品の一部に色を塗る体験を提供してくださいました。また、イフクさんと社員の家族と塗り絵のワークショップも開催し、家族ぐるみで交流を図ることもできました。会話が難しい状況であっても、進行中の作品を眺めながら食事ができたことや一緒に絵を描きながら交流することができたことは、非常に贅沢な体験でした。

▶︎塗り絵ワークショップの作品

岸本:食堂の壁が作品に変わった感想はいかがでしょうか?

小南:イフクさんの作品が壁一面に描かれ、食堂は元の活気を取り戻したように感じています。最初の不安に感じていたことが嘘のように、アートの導入によって空間の雰囲気が一変しました。今でも、社員たちは絵を眺めながら会話を楽しむ姿が見られ、作品が社員間のコミュニケーションを活性化させたように思います。

会社全体でアーティストを応援

岸本: お二人や働いているスタッフのアートへの関心に変化はありましたか?

小南:展示を行う前は、アーティストとの繋がりはまったくありませんでした。しかし、展示をきっかけにイフクさんの作品がとても目に留まるようになり、私自身もイフクさんの個展を訪問しました。その際、アトルの社員も多く足を運んでいたそうです。
イフクさんの話題を通じて社内のコミュニケーションも増え、福岡マラソンでイラストを描かれていることや福岡市のレジ袋*がイフクさんによってデザインされていることも大きな話題になりました。さらに、社長が全社会議でイフクさんの活動を紹介すると、それをきっかけに会話が広がったように感じます。
(*レジ袋:2024年11月29日から販売されている福岡市内でごみ出しに使えるレジ袋”ふくレジ”)

岸本: 会社全体でアートを通してコミュニケーションが増えているのですね。他にはどのような変化がありましたか?

小南:直接的な影響かはわかりませんが、交通事故の件数が減少していることもあり、社長は「あの絵の効果だよ!」と冗談まじりにおっしゃっています。半信半疑ではありますが、会社の雰囲気が明るくなるなど、前向きな変化が多く見られるので、貢献できているのかなと感じています。

山田: 「なんでもやっていいんだ」という考え方が、一気に社内に浸透したように感じます。私たちには想像もつかなかった「壁に絵を描く」というアイデアを形にしてもらったおかげです。以前は「これやっていいですか?」とか「それはさすがに無理でしょう」といった反応が一般的でしたが、今では新たな提案が次々と生まれ、YouTubeを始めるなど新しい挑戦にもつながっています。

本社や各拠点でもアートを導入

岸本:社員食堂の壁以外にアートを取り入れる予定はありますか?

山田:社員食堂のウォールアートとは別に、イフクさんの作品を購入し、本社だけでなく各拠点でも展示しています。社内で展開する中長期ビジョンのポスターは、以前は硬い目標達成を強調するデザインで作成していました。しかし、イフクさんの展示の際、制作サポートをしていただいていたイモトサユリさんと出会い、新たなポスターデザインの制作を依頼することにしました。その結果、これまでとまったく違うアートを取り入れたポスターが完成しました。
イモトさんの描かれた作品についてお話を伺ったところ、まず九州とアトルの拠点を描くうちに、その絵がまるで魚のように見えたと仰っていました。そこから社員を自由に泳ぎ回る魚のイメージに見立てることで、ポスターを完成させたそうです。

小南:アート作品やポスターを受け取った瞬間、「これは何だろう?」という会話が始まります。この反応こそが、私たちにとって大切なものです。作品を通じて自然とコミュニケーションが生まれ、それが明るい雰囲気を作り出しているのだと思います。このポスターは全拠点に展開し、オフィス内に設置しています。また、原画も本社オフィスに飾らせていただいています。

岸本:今後は他の事業所でもアートを取り入れていきたいですか?

小南:他事業所で運営する課題として、本社と支店の間にどうしても隔たりが生まれてしまうことがあります。しかし、支店も巻き込んでさまざまな取り組みを進めていきたいと考えています。ちょうど今、オフィスのリニューアルを大規模に進めており、堅苦しい昔ながらの雰囲気を脱却し、フリーアドレスなどを取り入れたオープンな環境へと変えようとしています。
新しいオフィスで期待することは、より自由な発想が生まれ、人と人との交流が増えることです。また、オフィス内にアート作品を取り入れることで、自然と話題が生まれ、社内外を問わず交流が広がるのではないかとも考えています。最終的な目標は、30拠点すべてのオフィスにアート作品を導入することです。

株式会社アトルが考えるこれからの展開

岸本:今後イフクさん以外にアーティストとのコラボは検討されていますか?

小南:アトルが展開するイベントなどで福岡市のアーティストの作品を展示し、薬局や医療機関の関係者の方々にご覧いただくことを社内で検討しています。病院にアート作品を飾りたいと考えている方は多くいます。例えばアトル総合医療フェアという毎年福岡で開催しているイベントは九州全土から数千人の来場者があるため、アーティストにとっても多くの方に作品を見ていただく良い機会になるでしょう。この件については、今後ACFとも連携しながら進めていきたいと思います。

岸本:他の企業にもアートとのコラボをしてほしいと感じますか?

小南:私たちの当初の目的は、堅い業界の方々の頭を柔らかくすることでした。その意味で、アートはこうした課題の解決に最適だと感じています。同じような悩みを抱える業界や企業にも、アートに触れることで新たな視点を得て、課題解決のきっかけを見つけてほしいと思います。

株式会社アトルはアートを通じて、社員間のコミュニケーション活性化だけでなく、組織全体の考え方の変化を実感されているようです。小南さん、山田さんは本社の食堂や会議室にアートを取り入れることにとどまらず、次は他事業所や事業で関わる方々にアートを広めていく活動へと視野を広げられています。今後、ACFとの連携を強めて、さまざまな活動に取り組みを展開していくことが期待されています。

◾️参加アーティストのプロフィール

イフクカズヒコ
1979年生まれ。カラフルな色彩と力のぬけた線が特徴。
2007年「FUNKY802 digmeout オーディション2007」通過。 2009年「CWCチャンス展」ファイナリスト受賞。 主な仕事として、JR大阪環状線ラッピング列車「OSAKA POWER LOOP」アートワーク, 阪急百貨店うめだ本店ウインドウディスプレイ、伊勢丹「世界のワイン展」キャンペーンビジュアル、 FRED PERRY カタログ、ニューバランス Tシャツデザイン、コンバース ウエディング限定スニーカー、 スターフライヤー コラボTシャツ、東京スカイツリー公式グッズ「green story」、 PRONTO「あさのラテ」カップデザイン、高校英語教科書「All aboard!」表紙、 雑誌「VOGUE」「ゼクシィ」「メンズノンノ」等、幅広い媒体で活動中。 また、雑貨ストア「ASOKO」からウルトラマン、吉本、ドラえもん、ミニオンズ、 サンリオとコラボしたグッズが発売され話題に。

◾️参加アーティストの感想

今回、壁画を制作するにあたり会社内の雰囲気を見させていただいたり、社員の皆様の声を聞かせていただいたことでイメージをはっきりとつことができ、すぐに作品のテーマを思い浮かべることができました。
制作中も社員の方からいただくたくさんの嬉しい感想や応援の言葉に加えて、完成を毎日楽しみにしてくれている様子を間近に見ることができ日々励みになりましたし、いつも以上に作品に対して思いを込めることができたと思います。
ご家族へ向けたワークショップの開催や社員の皆様に壁画の一部を塗ってもらう体験を通して交流する機会も得られ自分自身普段の壁画制作よりも密接に関わることができた貴重な体験となりました。
制作後も個展に足を運んでくださったり、作品をご購入いただき社内に飾っていただいたり、イベントなどで「アトルの社員です。食堂の絵いつも見てます!」など嬉しいお声かけをいただくことも多く、今もこのようにアトルの皆様と繋がっていられることをとても嬉しく思っています。
色々な新しい感覚や気づきがあり自分にとって大事で印象に残るお仕事のひとつになりました。
(イフクカズヒコ)

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