
【アート×企業】インタビューシリーズ vol.2 渡辺通ワーキンググループ
マッチング
Artist Cafe Fukuoka では、福岡にゆかりのあるアーティストと企業のマッチングを促進し、新たな出会いと販路拡張につなげるためのサポート事業を行っています。本連載ではその実装事例をピックアップしてご紹介します。
第二弾は、渡辺通ワーキンググループとのまちづくりを考えるアーティストワークショップの取り組みです。
渡辺通ワーキンググループは、渡辺通という街が多様な人材や業種が交流し、新たなビジネス・カルチャーを創造する街になるという構想を基に、アーティストワークショップを活用した実証実験を2日に渡って開催しました。
1 日目は、アーティストの花田智浩さんと写真のコラージュを行い都市を舞台にした作品をつくるワークショップ。2 日目は、参加者が「企業とアートで起こしたい未来を描く」をテーマに様々な議論を繰り広げました。
今回は、九州電力(株) 都市開発事業本部の開発計画グループでこの取り組みを担当をされた高尾賢治さんにお話を伺いました。インタビュアーはACF アドバイザーでフリーコーディネーターの月田尚子さんです。
色々な人とより深い交流を生むためにアートを活用してみたい

月田:そもそも渡辺通ワーキンググループがアーティストと一緒にワークショップを開催するに至った背景を教えてください。
高尾:福岡地域戦略推進協議会(FDC)都市創造部会の中に渡辺通エリアのまちづくりについて検討するワーキンググループがあり、九州電力はその一員として関わっています。2023年度は、これまで検討してきた「渡辺通まちづくりコンセプト案」の実証実験をやるフェーズでした。渡辺通エリア周辺は「滞在・交流する場所が少ない」「新しい人々が交流し、新しいビジネスやカルチャーが生まれる場所にしたい」という意見が出ていたこともあり、机や椅子、Wifiなどの設備を入れてワークスペースをつくったり、植栽を配置して緑のあるスペースなどをつくったり、イベントを開催しながら、その場所に交流が生まれるか、という実証実験を行っていました。
その結果、周辺で働く方や地域住民の方が集まってくれたこともあり、「居心地のいい場所があれば人が集まるポテンシャルがある地域」ということが分かりました。
ただ、イベントを開催すると、ある程度人は集まるのですが、もう少し深い交流を生む場所にするにはもう一歩踏み込んだ仕掛けが必要だなと感じていたので、次はそこにフォーカスをして実証実験をしよう、ということになったんです。
月田:そこでArtist cafe FUKUOKA(以後ACF)にご相談に来られたということですね。ACFにいらっしゃったということは、その時点で実証実験にアートを取り入れてみようという思いがあったと思うのですが、それはなぜですか?
高尾:もともと第2回目に深い交流をつくる仕掛けを考えていた時に、「解決したい社会課題を設定して、時間をかけて本気で議論する」という案が出ていました。
その中でアートという切り口はどうか、という意見が出ました。国内外でアートを活用したまちづくりの事例があることや、福岡市が「Fukuoka Art Next」事業を推進していることもあり、アートとまちづくりが相性がいいという認識はありました。また、近年「アート思考」というキーワードを人材育成の分野で聞くこともあったので社会的にアートへの関心が増加していることも知っていました。
ただ、企業がアートとどう関わればいいのか、どう取り入れればいいのか分からなかったので、ACFに相談に伺いました。
月田:他にも深い議論に導く選択肢がある中で、なぜアートに興味をもったのか、もう少し詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか。
高尾:まちづくりの視点で言うと、アートは相性がいいイメージがありますし、何か面白いことが生まれそうだ、という期待もありました。ただ、アートの講演を聞くだけであれば、私たちの求めているものにならないので、ACFに相談したらアーティストと一緒に何かが出来るかもしれない、それは今まで私たちが経験したことがないことなので、そこから何か面白いことが生まれないかなという思いもありました。
アーティストとのワークショップで起こった変化

月田:実際にアーティストとワークショップをやってみて企業の方々の反応はいかがでしたか?
高尾:参加者の中には、ほとんどアートに触れたことがない方や「そこまで得意ではないです」とおっしゃっていた方も多かったので、ワークショップの冒頭にあった、質問に対して自分の考えを言う時間は、みなさん消極的で「誰からいく・・?」という空気が流れていました。
ただ、時間が経過するごとに、どんどん積極的に発言していくようになっていきました。そこがこの2日間で大きく変わったと思う個人的な印象です。他の人にも聞いてみましたが、渡辺通エリアには色々な人が関わっていることを改めて実感したという意見がありました。色々な人が行き交っているのは知っていたけど、あのワークショップは、自分の内面みたいなところまで踏み込んで話をしていたので、そういう思いをもった人が交差する場所だということが分かった、という意見が多かったですね。
月田:企業の人事などが実施するワークショップなどもたくさん受けられてると思うのですが、今回のワークショップと違うところなどありましたか?
高尾:あの空間にアーティストがいた、というのが大きく違うところですね。アートに詳しい人が話しているだけでは、みんなそこまで深いことを話さないと思います。ファシリテーターの方の力もあるのかもしれませんが、アーティストがいるから、みんながいる前で内面的な質問にも答えられたのではないかと思います。
月田:実際にワークショップを実施してみて、その後に何か変わったなと思うことなどあれば教えてもらえますか?逆に何も変わらなかったな、ということでも大丈夫です。
高尾:個人的なことですが、アートが身近なものになったなと感じています。今までは景観の一部というか、鑑賞するだけ、のことが多かったのですが、これは何を表現しているのかな?どんな思いでつくったのかな?と考えるようになりました。
あとは、自分の考えや意見を率直に言うようになりました。あのワークショップは、正解や間違いはないので、とにかく思ったことを自由に言ってください、という場だったと思うんですが、その後も「自分はこう思うのでこうしたい」ということを素直に言えるようになったような気がします。その結果、「それは違うんじゃない?」と言われることもありますが、「そういう考えもあるのか」とストレートに受け止められるようになったように感じます。
月田:まるで私が頼んで言ってもらったような答えをいただいてしまいました。ありがとうございます。
ちなみに、アーティストの花田智浩さんにも感想を聞いたのですが、アーティストが企業に関わることはほとんどないので、初めて会う方同士が、アート作品を作ることによってお互いのコミュニケーションが生まれたり、無心で作品づくりに取り組んでいる姿を見られたことをとても喜んでいました。あと企業の方とワークショップをすることが初めてだったから、事前準備や内容を考えるのが難しかったと言ってました。
高尾:それは私たちも同じです。私は参加者でもあり事務局でもあったのですが、プログラムの内容が分からない中、アートに造詣が深いわけでもないので、ワークショップの時に何もフォローが出来ないという不安がありました。

今後のワークショップの生かし方
月田:ワークショップから1年が経ちましたが、今でも渡辺通エリアではまちづくりの活動が進行中だと思います。今後、このワークショップがこう生かされて欲しい、などの期待はありますか?
高尾:アートという切り口ではないかもしれませんが、街はこれからどんどん変化していくと思います。一方で、街は色々な人が関わる場所でもあるので、いきなり大きな変化をおこすのではなく、こういうことをあちこちで小さくやってみるというのはいいことなのかなと思います。
特に今回のワークショップは、色々なバックグランドの方が集まって意見も言いやすい雰囲気でした。自分の内面のことまで言える雰囲気づくりが出来ている空間は、なかなかないと思います。
月田:このワークショップは、企業の方がまる2日間、会社から離れて参加していただくプログラムになっていました。このようなワークショップに企業の方に参加していただくことはかなり難しかったと思うのですが、もっとこうして欲しかった、などのご意見はありますか?
高尾:当然、時間が短い方が参加はしやすいとは思うのですが、ただ1日目、2日目でのプログラムの違いや、通しで参加したからこそ感じる変化などもありましたので、どちらがいいと言うのは難しいなと思います。
月田:確かにそうですね。個人的には、参加される企業の方はもっと少ないかと思っていたのですが、蓋をあけてみるとかなりの企業の方が2日間通して参加してくださったので、それは有難かったです。
企業とアートの関わり方の可能性
月田:企業の方にアーティストと一緒に協働しませんか、とお声がけすると、壁に絵を描く、広報物をデザインする、という取り組みになりがちです。それはアーティストの活動の機会を広げることになりますし、とても素晴らしいと思うのですが、個人的に、アートは人の関係性や考え方を変えるというか、自分自身にもう一度問い直すきっかけを与えてくれる側面があると思います。
そういう関わり方を企業の方にもしていただきたくて、今回、アーティストとのワークショップをご提案させていただきました。実際、ワークショップを体験していただいて、企業やまちづくりの業務の一環として、例えば教育的な側面などで、アートが関われる可能性はあると思いますか?
高尾:個人的な意見ですが、私は可能性はあるんじゃないかな、と思います。私個人としては、「ワークショップを通じて、率直に意見を言えるようになった」など、効果を感じているのですが、一方でその効果は個人個人で異なりますし、定量的に図れるものでもありません。それを他の人にどう理解してもらうか、というところが難しいと感じますね。
月田:体験してみないと、腑に落ちない事ってありますよね。アーティストの花田さんの感想でも、アートと企業の関わり方の可能性として、日頃接点がない人達をつなげていくという意味では貢献できたんじゃないか、改めて、アートはお互いの感性を知るコミュニケーションツールだと感じた、と言っていました。
高尾:あのワークショップのよかったところは、1つの会社だけでなく、色々な方が参加されたことだと思いますね。横のつながりが出来たということもありますし、職種が違えば考え方も違う。この人はこういう風に考えるんだなという内面まで触れることができる機会が、もっと深い交流につながるんじゃないかと思います。

参加アーティストの感想
Tomohiro Hanada
1986年生まれ、福岡県飯塚市在住
2016年 ベルリン写真専門学校 (Neue Schule für Fotografie Berlin) 卒業
2020年 個展「Today is a better day」(Libris Kobaco、福岡)
2022年 グループ展「現実47」(大分県立美術館)
2022年 グループ展「2024 Jogja Fotografis Festival」(インドネシア)
ワークショップの感想:自身が「Your city is yours(街はあなたのもの)」という作品を制作していることもあり、まちづくりを行なっている人に直接話を聞いてみたいという思いから参加しました。企業の人が作品を見てどう思うのか、作品がどのように出来上がるのかが楽しみでした。
出会ったことがない人を想像しながらワークショップを楽しんでもらえるか、企業にどう活かせるかを考えワークショップを企画することは難しかったですが、当日は、思った以上にスムーズに手を動かしてくれて、アート作品を作ることで参加者同士のコミュニケーションが生まれました。
改めてアートはお互いの感性を知ることができるコミュニケーションツールであると感じました。企業の方々が、アーティスト、アートに歩み寄ってくれたことに感謝すると共に、アーティストも企業に歩み寄ることが出来たらと思いました。