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アートが都市を変える:創造する、選ばれるまちArtist Cafe Fukuoka活動報告イベント

2025.04.23

レポート

2025年3月22日、Artist Cafe Fukuoka活動報告として特別トークイベントを開催。第1部では、福岡を舞台に広がるアートについてのトークイベント、第2部は、Artist Cafe Fukuokaから生まれた企業との取り組み事例などの報告が行われました。
トークの模様を本レポートにてご紹介させていただきます。

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【第1部_登壇者】

寺田航平(寺田倉庫株式会社 代表取締役社長)
加藤育子(スパイラル/株式会社ワコールアートセンター アート事業部部長・キュレーター)
KYNE(アーティスト)
高島宗一郎(福岡市長)
モデレーター 山出淳也(Yamaide Art Office株式会社 代表取締役)

福岡の、日本の、アートを巡る
2025年の現在地

山出_まず第1部では、ここ福岡市でのアート活動がどのように行われているのか、今後新しい価値をつくっていくためには、どうすればいいのかについて、パネリストのみなさまと話していきます。まずは高島市長より、福岡市が行っているアートに関わる活動についてお話をお聞かせいただけますか?

高島_まず前段として、私が日頃考えていることからお話します。いまテクノロジーの進化のスピードが速いことはみなさん日々実感されているところでしょう。ChatGPTを使うとその能力も成長速度も信じられないほどで、あっという間に答えが返ってきますよね。

その状況にあって、私は、いま「答えを出すこと」そのものにはあまり価値がなくなってきていると考えています。私たち人間がやるべきことは「思考すること」「感じること」で、人間にしかできないことに、大きな価値が見出されるのではないかと。

また近年はすごく短く言い切った言葉が広く拡散される傾向にありますよね。しかし言葉にした時点で物事の解像度はとても粗くなり、本当はあえて言葉にせずに伝えた方がいいものも多いなぁというのが、私の実感なんです。

これらの命題に対して、大きな役割を果たすのが、アートではないかと思います。私は美術の成績が10段階の2でした。ただこれは、私には「つくる」技術がなかったというだけで、大人になって美術の価値は技術的な側面だけにあるわけではないと、だんだんわかってきました。アーティストがどんな問題意識を持っているのか、作品がどんなコンセプトで作られているのか、鑑賞を通して「考える」ことが美術のとても重要な一側面なんです。こんなに大事なことは、もっと早く知りたかったですよ!(笑)。

福岡市では、アートを通して多くの人に考える機会を提供し、その入口をつくりたいと考えています。街がアップデートしていく今だからこそ、こういうアートのような有機的なものが大事だと考えています。

山出_高島市長は、アートが一人ひとりの中に火をつけることができる、固定観念を外すことができるものとして重要だと考えているということだと思いますが、そのきっかけはなんだったのでしょう。


高島_「一枚の絵を、自分のお金で買う」体験が大きかったと思います。自宅に飾っている絵を毎日眺めるわけですが、同じ絵にも関わらず違って見えることがある。これって絵が変化しているわけではなく、私が変化しているということです。「なぜこの絵が、今日はこんなふうに見えるのだろう?」絵を通して、自分自身との対話が始まった感覚があり、それからアートの見方が変わりました。

こうした体験をもっと早いうちにしておきたかった、という思いもあって、福岡市では、小学校や中学校に対して、福岡アジア美術館や福岡市美術館へ来館してもらうためのバス代を支給しています。実際の作品を目の前に「これ、どういうことだと思う?」と対話しながら鑑賞をする取り組みです。

山出_今日はアーティストのKYNEさんにもお越しいただいています。いまや全国・世界でご活躍ですが、変わらず福岡市を拠点にされている理由を、アーティストの視点から教えていただけますか? 

KYNE_実は10数年前に東京に拠点を移すアイデアはあったのですが、東日本大震災があって一度タイミングを逃しました。ところがその後福岡で活動する中で、メリットが大きいと感じるようになり、今に至っています。

まず福岡のいいところは街がコンパクトなこと。生活コストが低いこと。適度な情報量という点です。街がコンパクトだからこそ、僕くらいの若い年齢の作家でも、いろんな方とお話できるチャンスがあります。今日、高島市長と一緒に登壇していることもそうですよね。また東京と違い、福岡は音楽もアートもファションも、各ジャンルのカルチャーが単独では成り立たない規模の街です。それは経済的に成り立たせることが難しい一方で、いい側面を見れば、カルチャーを横断して行き来しながら活動しているアーティストが多い印象です。

山出_なるほど。土地の規模のお話ですね。今日は東京から、アートに関わるお仕事に携わるお二人に来ていただいているので、そのあたりもうかがえるかもしれません。寺田倉庫の代表・寺田航平さんと、スパイラルの加藤育子さんです。

寺田_寺田倉庫の寺田と申します。私はもともとベンチャー企業を経営していて、家業である倉庫業を3代目として継ぎました。アートに関わるようになったのはこの7年ほどです。最初に日本のアート市場について感じたのは「もったいない!」ということでした。元がビジネス畑だったものですから、現在日本のアート市場は900億円ほど。対してアメリカは3.9兆円です。為替の問題もありますが、それでも1/40ってことはないだろうと。そこで、エコシステムを整備したら、もっと日本のアートマーケットが大きくなると考えたんです。現在は市場そのものが2000億まで成長することを目標に、アートに関わる事業を行っています。

やっていることは大きく3つ。1つめは、拠点としている「天王洲をアートシティにすること」。2つめは、我々は倉庫業を生業としていて日本一多くのアート作品を保管しているのですが、それらはオンラインで登録し一元管理できるようにしています。3つめはそれらのアートを使った、「新しい体験をつくること」です。これらを軸に、多くのコレクターから預かっている作品を活用して、それらを見せるミュージアムを企画したり、アーティストを支援するカフェを作って若手の作品を見てもらえる場を設けたりしています。
地域との関わりという点では、近年京都にも拠点をつくり、アーティストの成長支援を京都でも取り組み始めました。この観点からも、福岡の街にも注目しています。

加藤_私はスパイラルという、東京・青山にあるアートセンターでキュレーターをしています。普段は展覧会をつくるのがメインの仕事です。もともとスパイラルは、株式会社ワコールが文化の事業化を目指して1985年につくった文化施設で、メセナという方法で金銭的にアーティストの支援をするのではなく、みなさんの暮らしの中にアートを届ける。それを事業化することで、持続可能な「生活とアートの融合」を目指してきました。

今年で40年目を迎えるスパイラルですが、なぜここにいるかと言いますと、2025年4月24日に天神にオープンする「ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)」の中に、「SPIRAL GARDEN」というスペースを設けることになったからです。アートを飾る場所とカフェ、ショップが緩やかにつながる空間になる予定です。さらに私たちは2000年から「SICF(スパイラル・インディペンデント・クリエイターズ・フェスティバル)」という公募制のアートフェスティバルを行っており、これを今後福岡でも開催したいと考えています。ここ福岡で、これからアーティストの発掘、支援、そして単発的なイベントではなく継続的な関わりを続けていきたいと考えています。

アートが社会にできること
社会がアートにできること

山出_少し話が飛躍するようですが、いま例えばアメリカではトランプ政権のもとで関税が見直されて、世界的にマーケットが大きく変化する可能性があります。一方少子高齢化で地域のあり方や、家族像も変わりつつあります。このようなグローバル、ローカル単位でも変化の多い社会情勢の中で、アートはどのようにあるべきか、私自身考えることが増えてきました。

みなさんは、行政としてアーティストとして企業として、アートが盛んになることでどのような未来が描けるとお考えでしょうか。


高島_私は冒頭の話にも繋がりますが、アートは「それぞれが考えること」の手助けをしてくれると考えています。

例えば、福岡アジア美術館で開催中(2025年3月時点)のベスト・コレクション展で、リー・ダラブーというカンボジアのアーティストの《伝令》という作品が展示されています。これはポルポトの独裁政権下で伝令として、つまりスパイとして働かされ処刑された子どもたちの写真が並ぶ中に、時代が異なるまったく無関係の子どもの写真が2枚紛れ込んでいるという作品です。一目では見分けがつきません。この作品を見て、私たちはなにを考えるでしょうか。「この子がスパイじゃないか」という眼差しは、無実の人を冤罪に落とし入れる視点かもしれない。はたして彼らは悪の存在だったか、それとも犠牲者なのか。自分の感覚がグラグラと揺さぶられます。そしてそれはいまの社会での出来事に相対する自分自信にも突き刺さります。

こういった考え続けるきっかけを与えてくれるのが、アートだと思います。答えを出すのではなく、「問いを投げかけ続ける」存在です。

山出_地方に住んでいると、どうしても視野が狭くなったり、関係範囲が狭くなったりするものです。そこにポンッと違う色を混ぜてくれるのがアーティストという存在でもあるのかもしれませんね。

高島_価値観を相対化してくれる存在としてのアーティストですから、行政としてはアウトプットに制限をかけないサポートもしたいと思っています。この会場の奥には体育館を改装した広い「グランドスタジオ」があり、ここで作品を展示できるようにしています。なかなか民間の施設で大きな場所を準備するのは大変なので、これは行政だからできることかもしれません。

アジアの中の福岡が持つ
可能性を掘り下げる

山出_ここArtist Cafe Fukuokaができて以来、実際に若手のアーティストが増えた実感があります。


KYNE_アーティストにとって個性って大事なものです。そのアーティストが大都市に集中するのは、実は一番のアイデンティティを失うことのように感じるんです。住む場所の選択は、作家にとってすごく大事な選択のはず。このような場所があることで、福岡で制作ができると可視化されるのは大切ですね。僕にとっては福岡で見る景色や暮らしは、インスピレーション元として欠かせません。

高島_KYNEさんのインスタを拝見していると、バイクで海や山に行かれていますよね。福岡は、その自然と街の近さ、コンパクトな中で刺激を受けられる環境に特徴があるのかもしれませんね。

KYNE_それにアジアに近い風通しのよさもあります。福岡を中心に円を描けば、韓国や中国、台湾は東京よりも近い。実際、僕自身もアジア各地での活動も増えています。この軽やかに活動できる環境は、なかなか得難いのではないでしょうか。

山出_企業の目線から、福岡に感じる可能性や今後必要とされるサポートについて、寺田さん、加藤さんは、どのようにお考えですか?

寺田_地政学的にアジアの結節点であるというお話が出ました。そのクロスカルチュラル性をより伸ばして、いま取り組まれているアジアの作家が滞在するレジデンスプログラムをもっと充実させることには、とても可能性を感じます。また、大学、大学院を卒業したあとの活動拠点のような、もう一段自分を深めるような仕組みができると福岡は更に面白いところになっていくのではないでしょうか。

加藤_私もそう思います。さらに反対のベクトルで、福岡のアーティストがアジアで活動をする際の渡航費や滞在費を援助できる仕組みなどもあれば、すごくいいのではないかと思います。

もう一つ、アーティストたちの卵たちは、学生時代だと学校にアトリエがあるので制作環境に困らないのですが、卒業すると途端に作業場所がなくなるという問題に直面します。また若手を対象にした公募は意外と多いにも関わらず、30代くらいの中堅になると発表の場が減ってしまいます。他にも大きな作品をつくるときに助成金を申請したくても、細かい書類作成が必要などハードルが高い、なんて問題もあります。アーティストによって様々なステップがあり、その段階で必要な情報やサポートが変わってくるんですよね。

一人だと心細いけど、一緒にやったらできるかもしれない。これまでより大きなプロジェクトに挑戦して、次のステップを踏めるかもしれない。街全体で、そういう機会を多く準備できるといいですね。

寺田_企業目線で考えると、アートの特殊性をビジネスに活かすとしたら、「お金に変える」だけでなく「お金でない価値に変える」方法も考えられます。そしてその方法に決まり切った答えはありません。個別に考えるしかない。

日々事業を行っていて実感するのは、「地域に根ざした企業が、本気で取り組むと強い」ということです。アートによるまちおこしが盛んに言われますが、なにもないところに、アートだけで街をつくるのは大変に難しい。しかし住民がいて企業活動があるところでまちづくりを考える際、グランドデザインにアートを組み込むことは、今後より重要度を増してくると考えています。例えばアジアでは台湾でも取り組んでいますが、「パーセント・フォー・アート」といって、公共建築物の総工費の約1%をアートに割り当てる取り組みが制度化されているように。

そのときに重要なのは「企業がいかに本気で取り組むか」ということ。私たちは天王洲に倉庫やオフィスの土地を抱えています。この地域が活性化して付加価値が生まれ、例えば家賃が1000円上がれば、利益は生まれます。一方的な投資ではないことが起こるのです。結論、企業のみなさん本気で取り組んで結果を出そうよ!ということですね(笑)。

山出_アートが地域で価値を生む力強い例ですね。KYNEさんは行政に望むことはありますか?

KYNE_行政によるアートの取り組みはありがたいのですが、それ以外の音楽やスポーツなどのシーンにも注目すべきだと考えています。若い世代が表現できる場を「邪魔しない」ことは実はすごく重要で、ひいてはアートにも相乗効果があると思います。カルチャーは、相互に刺激し合って成長していくものです。アーティスト自身も、ボーダレスに自由にのびのび活動できる状況をつくりたいと考えていますね。

高島_そうですね。アート、音楽、スポーツと政治・行政というのは、決して対立構造ではなくて、互いにリスペクトを持ちながら、発展させていきたいですよね。

そして私がスタートアップやアートに力を入れることで、福岡に新しい価値を生んでいきたいというのも、実は方法こそ違えど表現活動なのかなと考えているんです。どんな街を、日本を、世界を作りたいかを、市民のみなさんと一緒に表現していきたいですね。

いま福岡市が標榜する「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」は、一見ビルなどのハードの建て替え事業に見えますが、それはあくまで手段で、そこに高い付加価値を集積させていくことが目的です。これから警固公園の地下駐車場を、福岡アジア美術館として整備します。そこは世界のどこにもない近現代のアジア美術を集積している美術館として、これまで以上に認知されるようになると思います。そしてそれは福岡市がアジアで存在感を持つことにも繋がるはずです。

山出_今日は、行政、アーティスト、企業、キュレーターそして聴講いただいたみなさん全員が、同じ舞台に立っている熱を感じました。新しいパブリックのありかたを体感した気がします。これからの福岡市も、市長が旗をふるだけでなく、みなさんと一緒に歩いていくことで厚みを増していけたらと思います。本日はありがとうございました。

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第2部 活動報告、企業等によるアートの取組み事例紹介

第2部では、Artist Cafe Fukuokaから生まれた企業との取り組み事例などの報告が行われました。

●「CIC Fukuoka」とのコラボレーション

発表/永井伸(西日本鉄道株式会社 天神開発本部 福ビル街区開発部 課長)

ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)内にオープンする、アメリカ発のイノベーションキャンパス「CIC Fukuoka」。CICからのオーダーは「ローカルなアーティストとのコラボレーションで、キャンパスをつくりたい」というものでした。そこでArtist Cafe Fukuokaに相談し、福岡にゆかりのあるアーティストの中から、白川千佳氏・小宮貴一郎氏、Marumiyan氏、仁太郎氏4人のアーティストを選出。4つの壁面に作品を描く「ウォールアートプロジェクト」を実施しました。

●ホテル「クロスライフ博多柳橋」ロビーでのアート展開

発表/矢野こころ(WTホテルマネジメント合同会社 クロスライフ博多柳橋(セールス&マーケティング課)広報担当)

地域とのつながりをつくりたいと実施している「アーティスト イン クロスライフ」の第2弾として、Artist Cafe Fukuokaと協業。半年ごとのホテルロビーでの展示・販売を行うアーティスト公募に90名の応募があり、これまで4名の展示・販売やアーティストによるワークショップを実施。、アーティストからポジティブな反応を得られただけでなく、顧客、ホテル従業員へのよい影響も感じていると発表されました。

●アート新規事業「デジがろ」立ち上げ

発表/中村康平(九州電力株式会社 地域共生本部(総務) 地域振興グループ副長)

大浦彩音(九州電力株式会社 コーポレート戦略部門 ESG統括グループ)

「デジがろ」は、キュレーション機能つきのNFTアート販売プラットフォームで、現在九州電力の新規事業として準備中のプロジェクトです。これは、学芸員がしっかりキュレーションに入ることで、デジタルアートの価値を安定させ、購入希望者と安全につなぐことを目的としています。立ち上げ段階からArtist Cafe Fukuokaに相談を行い、対話を通じてプロジェクトの内容を深めたとのこと。

最後に、経済産業省の藤井亮介氏から、文化創造産業課で取り組む「×ART(かけるアート)スタートアップガイドライン」の紹介が行われました。これは「アートやクリエイティブを活用して、地域を元気にしよう」というものです。

ユニコーン企業の経営者に芸術系の教育を受けている人が多くいるというデータや、アーティストとテック企業の協業などの例を挙げ、ビジネスとアートがけして遠いものではなく、掛け合わせることでより相乗効果を高めようとする取組みだという説明がなされました。

現在、ビジネスとアーティストが交わることで経済価値を生む実証実験を行っており、福岡県八女市や福岡市での事例も紹介され、今後より地域の企業とアーティストとの協業に力を入れていきたいとのこと。文化庁からのアート施策とは一味異なった、経済から見るアート施策が興味深いお話でした。

(ライター nicoedit 浅野佳子)

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